『欲しがらない若者たち』 山岡拓(著)
定価:893円
単行本:224ページ
出版社: 日本経済新聞出版社
発売日:2009/12/9
<概要と読みどころ>
ホテル業界を志望する学生の就職活動サポートをかれこれ15年ほど
続けています。毎年、必死にシュウカツに励む若者にアドバイスをし
たり、くじけそうなところを励ましたりしているのですが、昨年の学
生さんあたりから、ちょっと違和感をいだくようになりました。
必死さが足りない、がつがつしない、競争しない、すぐにあきらめ
るという傾向があり、自分の人生を切り開く勝負どころなのに、これ
でいいのか、という違和感です。
こんな不安を感じる一方で、感心する部分もあります。それは、と
ても優しい、まじめ、協調性がある(KYでない)、思考は深い、と
いった子が多いということです。
特に男子の変容ぶりには驚くばかりです。草食系男子とはよく言っ
たものです。それを象徴するエピソードがあります。
先日、ホテル志望学生10人と牛角に行きました。男子5人、女子5
人です。そこで、男子はせっせと焼き奉行をします。焼き方も上手で
す。一つ一つをミディアムレアにちゃんと焼き、それを女子の皿にせ
っせと運ぶ。女子は、喜々としてその肉を頬張り続けるのです。
また、こんなこともありました。
大学4年生とあるイベントの打ち上げをしていたときに、「今の学
生は、海外旅行も、車も、ブランド品にも興味がないらしいえれど、
じゃあ、なににお金を使っているの?」と聞いたところ、答えは、
「貯金してます」と、その場にいた3人が全員口をそろえたのです。
私の世代は、「学生は自己投資するもの」が当たり前でしたが・・。
こんな驚くべき事実が、今回紹介する『欲しがらない若者たち』に
はたくさん紹介されています。
1、アフターファイブは家でまったりしたい。
酒よりはスイーツ。
酒を飲まない男性の割合は、40代で16%、20代で37%。
月2回以上アイスクリームを買う20代男子は二人に一人。
2、10年前、最も海外旅行をした年代は20代だが、いまは20代が
最も海外旅行をしない
3、「今を楽しむよりは将来のために貯蓄する」と答えた20代割合は、
2000年で22%、2007年で40%と激増。
若者は、キリギリスからアリに変わってしまった。
4、若者は「恋人より友達といるほうが楽で楽しい」と答える人が
3人に1人いる。デートのために勝負服を買わない。女性を誘う
ために車を買うことはしなくなった。
20代後半の男性で、「デートのためにレストランの予約をしたこ
とがある」人は3人に一人しかいない
5、経済的に自信が持てないし、将来どうなるか不安定だから結婚
に踏み切れない。
6、テレビ制作者やコピーライター、弁護士、公認会計士などは人気
がなく、若者が就きたい職業のナンバーワンは、公務員。
7、大学生に「10年後の自分のイメージ」を聞いたところ、女子学生
は「バリバリ働いて、週末はぐったりしている」だが、男子学生
は、「週末は子供と遊んでいる」という回答が目立った
幸せの価値観が、急速に変化しているのでしょう。物欲が薄れ、内
向きになっている。生まれてから20歳前後になるまでの間、ずっと不
況だった彼らの生活は、不況とはいえそれなりに便利で満たされてい
たのです。欲張らなければ、日常の中の、ささやかな幸せで満足でき
る。そんな大人しいいい子ちゃんなのです。
経済は人間の欲求の大きさに比例するとも考えられます。
このような世代がマジョリティになっていく日本では、日本経済、
日本人の物質的な豊かさは低下していくに決まっています。
「これからは、『登山に例えるなら、重要なのは登りよりも下りの歩
き方』」であると。
著者はあとがきで、このように面白い比喩で日本経済の方向性を紹
介していますが、ごもっともです。
よく、「いまの若いやつららはだめだ・・・」という意見を耳にし
ます。でも、それでは何も解決しない。世代間の違いは、いつの時代
でもあります。理解しあう努力が必要なのです。
そのために、本書は最高の指南書であると思います。
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<オススメ度> ★★★★
(評価の見方)
★★★★★・・・一年に出遭うか出遭わないかの最高傑作
★★★★ ・・・ぜひ、みなさんにも読んでほしい一冊
★★★ ・・・おススメ!
★★ ・・・まあまあ、おススメ
★ ・・・読んで損はない